「給与明細の残業代がよく分からない…」 「働いた時間に対して、残業代が正しく支払われていない気がする…」
調理師や料理人の多くが、このような残業代のモヤモヤを抱えています。特に、調理師業界に広く普及している**「みなし残業(固定残業代)」の仕組みは複雑で、これを正しく理解していないと、知らず知らずのうちにサービス残業**を強いられている可能性があります。
しかし、安心してください。みなし残業の仕組みと、自分の権利を守るための法的知識さえあれば、この不安は解消できます。
この記事では、みなし残業の定義から、あなたの残業代が違法かどうかをチェックする基準、そして未払い残業代を請求するための具体的なステップまで、徹底的に解説します。知識を武器に、適正な給与と充実したキャリアを勝ち取りましょう。
1. 調理師業界に多い「みなし残業(固定残業代)」とは?
まず、みなし残業とは何か、その定義と仕組みを正確に理解しましょう。
定義と仕組み
みなし残業(固定残業代)とは、毎月の給与に、あらかじめ一定時間分(例:40時間)の残業代を含めて支払う制度です。
- 基本給:残業代を含まない本来の給与。
- 固定残業代:残業の有無にかかわらず、毎月定額で支払われる残業代。
この制度は、主に給与計算のシンプル化や人件費の予測を容易にしたい企業側にとってメリットがあります。しかし、調理師などの労働者にとっては、**「働いた分だけ残業代は出ない」**という誤解を生みやすい原因となっています。
調理師が陥りやすい決定的な勘違い
多くの料理人は、「固定残業代が出ているから、いくら残業しても追加の残業代は出ない」と思い込みがちです。
これは間違いです。
固定残業時間(例:40時間)を超えて働いた場合、その超過した分の残業代は、会社に別途支払われる義務があります。この超過分の支払いがない場合、それはサービス残業であり、違法です。
2. あなたの残業代が「違法」かどうかをチェックする3つの基準
あなたの雇用条件が労働基準法に則っているか、以下の3つの基準でチェックしてください。一つでも満たしていない場合、違法の可能性が高いです。
基準1:固定残業時間を「超えた分」の支払いがあるか(最重要)
これがみなし残業制度における最も重要なチェックポイントです。
- チェックすべきこと: 契約書に定められた固定残業時間(例:40時間)を超えて働いた分が、給与明細の「時間外手当」や「超過残業手当」といった項目で別途計上・支給されているか。
- 違法な場合: 超過分が支払われていない、または「残業代は固定額のみ」とされている。
基準2:固定残業代と基本給が明確に区別されているか
裁判でも重要視されるポイントです。労働契約書や給与明細に、以下の情報が明確に区別され、具体的に記載されている必要があります。
- 明確な記載:
- 基本給(残業代を含まない部分)
- 固定残業代(時間外手当)とその金額
- 固定残業代が何時間分であるか
- 違法な例: 「月給30万円(残業代含む)」などと、基本給と残業代が曖昧に合算されているケース。これは**「残業代の不可分」**として違法と判断される可能性が高いです。
基準3:固定残業代を含めても「最低賃金」を割っていないか
固定残業代を基本給とみなして計算した時間単価が、各地域の最低賃金を下回ってはなりません。
- チェック方法: 基本給(固定残業代を除く)を、月の所定労働時間で割った金額が、最低賃金以上である必要があります。
3. 正しい残業代の計算方法と「サービス残業」の証拠集め
未払い残業代を請求するためには、まずあなたが正確な残業代を計算し、それを裏付ける証拠を揃えることが不可欠です。
ステップ1:時給(単価)を計算する
残業代を計算する際の基本となる「1時間あたりの賃金」を求めます。
時給(単価)=月平均所定労働時間基本給
- 月平均所定労働時間: 365日 – 年間休日 ×8時間 ÷12ヶ月で概算できます。
ステップ2:割増賃金率を適用する
残業の種類によって、割増率が変わります。
| 残業の種類 | 割増賃金率 |
| 通常の残業(法定時間外) | 25%(時給の1.25倍) |
| 深夜残業(22:00~翌5:00) | 50%(時給の1.50倍) |
| 法定休日出勤 | 35%(時給の1.35倍) |
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サービス残業の証拠集め
会社は「残業の記録がない」と主張することが多いです。以下の具体的な証拠を、できる限り多く集めてください。
- 出退勤記録: タイムカードのコピー、業務日報、手書きの出退勤メモ。
- 業務の証拠: 勤務時間外に上司や同僚に送ったメールの送受信履歴(時間記録が重要)、業務で使用したパソコンのログイン・ログオフ記録。
- 客観的な記録: スマートフォンアプリなどで記録したGPSログや、自宅から職場までの交通費の記録。
4. 未払い残業代を請求するための具体的なステップ
証拠と計算が揃ったら、次は行動に移します。感情的にならず、法律と証拠に基づいた冷静な対応を心がけましょう。
ステップ1:証拠を揃えて会社に内容証明を送付する
- 内容証明の作成: 未払い残業代の請求額と、その根拠となる証拠(出勤記録など)を記載した請求書を、内容証明郵便で会社に送付します。内容証明は、**「いつ、どのような内容の文書を誰から誰へ送ったか」**を公的に証明するものです。
- 目的: 会社に法的な請求の事実を突きつけ、時効(3年間)を中断または更新させる効果もあります。
ステップ2:外部機関への相談
会社が請求に応じない場合や、自分で交渉するのが難しい場合は、専門機関に頼りましょう。
- 労働基準監督署: 労働基準法違反の相談や申告ができます。残業代未払いは労働基準法違反にあたるため、会社への立ち入り調査や指導を促すことができます。(ただし、個人の未払い請求を直接代行してくれるわけではありません。)
- 労働問題に強い弁護士: 弁護士に依頼すれば、交渉や訴訟手続きを全て代行してくれます。費用はかかりますが、未払い額が大きい場合は最も確実な方法です。
注意点:残業代の時効
未払い残業代を請求できる権利には時効があります。
- 時効期間: 2020年4月1日以降に発生した残業代は3年間で時効が成立します。それ以前は2年間です。
- 重要性: 時効が成立する前に、内容証明を送るなどして時効を中断・更新することが非常に重要です。
5. まとめ:知識があなたの労働環境を変える
みなし残業の仕組みは複雑ですが、あなたがプロの調理師として長く働くためには、その仕組みを理解し、自分の労働環境を守ることが不可欠です。
- 最重要原則: 固定残業時間を超えた分は、必ず別途残業代が支払われます。
- 違法チェック: 基本給と固定残業代が明確に区別されているかを、雇用契約書で確認しましょう。
- 証拠集め: サービス残業を立証するために、出退勤記録などの証拠を日頃から必ず残しておきましょう。
知識を身につけ、サービス残業とは無縁の、後悔しない転職と充実したキャリアを実現してください。

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